南大東島、15の春

2016年03月25日 11:00

 読者のみなさん、こんにちは。
 「お休みします!」と言いつつ一週間も経たずに新アップです。これでは休む休むサギですね。
 何が悪いって、ネタがそのへんに転がっているのが悪いんです!だって書きたくなっちゃうじゃないですか。。
 今回はDEEに掲載していただいた記事にやや足した内容となっています。あちらでは主に感動的なシーンだけを・・・と考えていたため、ちょっとだけ省いた個所がありますが、私にだって言いたいことはあるんだ。DEE記事では書かなかったけれどこちらで力いっぱい叫んでいる内容が一体なんなのか、見比べてみるのもいいかと思います。



 平成27年度最後の3連休は、2年越しの念願であった南大東島に行ってきました。
 2年前のGWにエライ目に遭ったことは、一部の読者のみなさんなら記憶にあることかと思いますので、今回の旅は本当に心待ちにしていたものでした。
 ・・・と言いつつ行くの決まったの出港前日の夕方でしたけど。



自転車では厳しいと言われますが、体力あれば自転車オススメ

 南大東島ってどんな島?という方に、簡単な島の解説をしたいと思います。
 南大東島は、沖縄本島から約350kmほど東にある絶海の孤島。1900年に玉置半右衛門等、八丈島からの開拓者が渡ってきたことで人の生活史がスタートした、とても歴史の浅い島です。
 人口は約1400人で、主産業のサトウキビ以外に目立った産業はありませんが、キビ関係の補助金がとても多いので沖縄の41市町村の中でもトップ5に入るお金持ちの島でもあるのです。ウワサでは住んでるだけで補助金がもらえて、キビ農家は那覇と大東の両方に家があり、住民票は大東だけど普段は那覇に住んでいるとかなんとか・・・。
 全く沖縄という土地は、基地関係も何もお金のニオイが絶えませんな!

 旅の話はまた後日ゆっくり公開するとして、今回は旅のクライマックスのお話をしましょう。
 話は、旅を終えて帰りのフェリーに乗るため港にやってきたところから始まります。



フェリーだいとう名物ゴンドラ乗船。この鉄カゴに乗りこみ、クレーンで釣り上げられて船上に降ろされる

 1泊2日の島内自転車旅を終え、いざ乗船と船着き場に到着すると、定員55人のフェリーには似つかわしくないほど多くの人が集まっています。



しかもほとんどが女性と子どもばかり

牧「あの~、これ何かあるんですかね」

島民「今日はね、中学校を卒業して高校に進学する子たちが島を出る日なんだよ!今年も10人くらい中学を卒業したんだけど、今日はそのうち3人が船で島を出るんだよー」


 なんと、偶然にも「15の春」の場面に出くわしたのでした。
 15の春、とは・・・




 島に高校がないため、進学のためには15歳の春に島を出て家族と離れて暮らさなければならない南大東島の実情を基に描かれた映画、「旅立ちの島唄~十五の春~」のことです。

 たった3人の子どもたちのため、何十人という親御さん、学校の後輩たちが見送りに港にやってきていたのです。



荷物をたくさん抱えた子が、島を出ていく子


突如クラッカーが鳴り響く。まだ早いって!




 14時出港ですが、13時30分までには乗船する必要があります。
 15年慣れ親しんだこの土地、家族、友達を後に、ゴンドラに乗りこみ名残惜しそうな表情の子どもたち。




 そしてゴンドラは地上を後に、船に向かって・・・

 と思いきや、なんとゴンドラが海上でガクンと揺れ、一気に海面に向かって急降下!!


「いやあぁぁぁ!!!やめてーーーーー!!!!」


 と大絶叫して大泣きしたのは誰でもない、でした。。
 私、観覧車も拒否するほどの高所恐怖症(ただし、人工物に限る)なので、フェリー関係者からの旅立ちのはなむけ(?)も、ただの恐怖にしか感じられません。こういったことは事前に言っておいて欲しいものです。




 海面すれすれから一気にゴンドラは急浮上、そのまま船上にストンと降り立ちました。
 船員たちの顔をよく見ると、みな大笑い。

「・・・絶対ゆるさん・・・」

 涙と吐き気と軽い発狂で一瞬にしてボロ雑巾と化した私は、船員たちの前で本当にこう呟いてしまいました。高所恐怖症のみなさんは、このタイミングではフェリーだいとうに乗らないことを強く強くお勧めしておきます。




 乗船すると、色とりどりのテープが船上から降り注ぎます。海風が強すぎて船が離岸する頃には全部切れてしまったのですが、そこはご愛敬。

 島を出た子どもたちが島に帰ってくる確率は2割と言われているようです。
 今この瞬間、旅立った3人のうち一体何人が再度島に住みつくのでしょうか・・・もしかすると、親や兄弟姉妹と一緒に生活する日は2度と来ないかもしれないのです。
 この旅立ちの日を、彼らはどのような思いで迎え、島を去っていくのでしょうか。




 ところで、船に乗る前からじっとカメラを回している男性がいました。彼は船に乗った後も、子どもたちに話しかけ、その様子をつぶさに映しています。




男性「このテーブルに刻まれているのは小中学校の校歌だね。これ見てるとどう思う?」

子ども「そうですね。なんかぐっときちゃいます」


 なんて会話を耳をそばだて盗み聞き。



島の名所、バリバリ岩と共にテーブルに刻まれた校歌

 聞けば、この旅立ちの様子を追った番組が4月7日(多分)にフジテレビ系列で放送されるとのこと。気になった方は見てみてくださいね。

 船は北大東島にも立ち寄り、同じく島を出る子どもを乗せて出港。南より人口の少ない北からの子どもの数はさらに控えめな様子でした。
 ・・・と、友達が申しておりました(笑)。私は体調不良で死んでいたため様子を見に行った頃には離岸2分後でした、残念。


 一夜明けて。


 船が南大東島を出て16時間20分後のAM6:20。
 日の出を迎える少し前の明るさで糸満沖に差し掛かったことが確認できた頃、突如アナウンスが流れました。


-中学校を卒業されたみなさんにお知らせいたします。甲板に全員集合して下さい-


 船内がにわかにパタパタし始め、外に向かう人たちからは嬉しそうな表情が見て取れます。
 こんな早朝から記念撮影ですか、ご苦労さまです・・・と思いきや、一緒に島を旅した友人から外に出るよう促されたのです。



船上で何かを待っている子どもやカメラマン

 そこで見たもの、それは・・・




 海上保安庁の船がフェリーにぴったりくっついて並走しています。あの船は監視や取締りをするための巡視艇ですよ、フェリーだいとうは密漁か何かしてしまったのでしょうか!?
 すると巡視艇が、被疑船に向かってメッセージを発する電光掲示板を光らせ始めました。










"卒業おめでとう。君たちの輝かしい未来に向かってチバリヨー!!"

 なんと、海保の船が南北大東島の子どもたちにメッセージを送り始めたのです。しかもよく見ると、船員が帽子を手に持ち、そろってこちらに手を振っています。
 きっと毎年のセレモニーなんでしょうけど、もし私が島を出る子だったら号泣してめちゃくちゃ手を振り返すところですね。
 最果ての島の子どもたちに対する国の温かいはなむけに、思わず熱いものがこみ上げてきました。

ちぃ「こんなことに国税が使われているなんて・・・」

 友達、そうかもしれないけど今はちょっと黙って!

 気を取り直して、そんな海保のジンとくる映像は、大きな画面でぜひどうぞ。



メッセージと共に乗組員の姿にもぐっとくる




 20分ほどエールを送った後、巡視艇はくるりと船首を向け、本来の任務に戻っていきました。




AM7:50、ついにフェリーは那覇、泊港にやってきました




 18時間の長い長い船旅を終え、沖縄本島に到着した子どもたち。きっとみな違う学校に通い、新しい友達ができて、都会での新鮮な高校生活を送ることになるんでしょう。妙な誘惑に負けず、素敵な3年間を過ごしてね!


 というわけで南大東島「15の春」の現場からお送りしました。
 石垣島、宮古島、久米島といった大きな離島には高校がありますが、30以上の有人離島には高校がないため、毎年こうした場面が繰り広げられています。その中でも、ちょっと特殊な大東島の門出に出くわしたのは偶然とはいえ、幸運なことでした。

 私も今から22年前、小学校卒業と同時に中学進学のため家を出ています。この子たちの姿を見ていると懐かしさ以上に、ひたむきに生きてほしいという純粋な気持ちが湧き上がり、心の中でエールを送りながら今回の旅立ちを見送りました。




 以上が、主にDEEに掲載していただいた内容です。

 が、ですよ。
 全く、あのゴンドラクレーンを操縦していたおっさんは!!
 私、どうにも苦手なものがいくつかあるのですが、その筆頭が海辺と人工物(特に巨大な廃虚や工場)の組み合わせなんです。
 記憶にないほど小さな頃から頻繁に夢に出て来て、その場面で津波や落下に見舞われ恐怖して跳び起きることが週に1~2度ありました。しかも沖縄に来る前後まで。
 魂に刻まれた記憶とでもいうべきか・・・とにかくそれを連想させるものを見たり体験すると、気分が悪くなったり、目眩を覚えることがあります。
 あのゴンドラが海面に迫る様はとかく私の深く繊細な部分を突いたというか。一瞬、我を忘れてしまいました。。

 ゴンドラで乗船する場面は、きっと番組の中でも重要なシーンだと思われます。
 もしも4月7日の放送であの絶叫と私の姿が映されていたら、しばらく穴に閉じこもって出てこられないかもしれない・・・そんなことを考えると気持ちがゲンナリ萎えてしまいます。。

 が。ここは編集者の良心にいちるの望みを託したいところ。ほんと、頼みますよ・・・。
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